公衆電話の滑稽さ

公衆電話のボックスで、だれかが熱心にしゃっべている。私はこち らから彼の表情を見ている。厚いガラスが間を遮っているため、何 も間こえない。ボックス中の人物はいよいよ熱中している、（①） といった感じである。見ていて、ふと滑稽になる。なぜ滑稽に感じ られたのか。電話による会話を成立させている話そのもの私に聞こ えないからである。状況全体の中核をなすものから、私が厚いガラ スによって遮断されているからである。正確に中核だけを除いた、 他のすべての状況を認めながら、いや、それゆえに私は状況中の人物に対して、まったく違和感を抱かずにはいられない。（②）サル トルの指摘を私なりの言葉で言い換えたものにすぎないが、電話 ボックスを野球場と置き換え、私を野球観客と置き換えるなら、野 球場での何が欠如した場合、そうした滑稽感を観客に引き起こすの だろうか。そんなことを思う。私たちが笑い出すのは、他のすベて の状況が正確に現前していながら、それら状況を意味づけ、生気づ ける中核が欠けているときであろう。そしてその中核こそ、現代方 衆を熱狂させているゲームのSine qua non（必要条件）であろ う。逆に中核をつかむためには、私たちを笑わせるその条件を知れ ばよい、といえようか。

想像してみよう、何が欠けたとき大野球場は滑稽か。声か。選手が 無言で球を追うとき、それは少しも滑稽ではない。選手、（③） ファース卜がいないときはどうか。もちろん、その場合、ゲームは 成立しないが、しかしトス•バッティグとみれば、何も滑稽なこと ではないのである。内野手外野手が次々と消えていったとしても、 なお「野球」は残る。それは肩慣らしであり、草野球である。ピッ チャーとキャッチャーという大事なポジションが欠けているとき も、野手の守備練習とみられるである。（④）、人の欠けているの は別におかしいことではない。それでは何の欠落がおかしいか。

想像してみよう。野手は九人ちゃんと揃って位置についている。 バッターさえも位置について構えている。ピッチャーがモーション を起こす。投げる。バッターがバットを振る。野手がすばやく走 る。しかし、（⑤）はないのである。これは声の聞こえない電話の 話し手以上に滑稽なことではないか。

（①）に入る言葉として最も適当なものを次から一つ選びなさい。

（②）に入る言葉として最も適当なものを次から一つ選びなさい。

（③）に入る言葉として最も適当なものを次から一つ選びなさ い。

（④）に入る言葉として最も適当なものを次から一つ選びなさい。

（⑤）に入る言葉として最も適当なものを次から一つ選びなさい。