原民喜『心願の国』

うとうとと睡りかかった僕の頭が、一瞬電撃を受けてヂーンと爆発①する。がくんと全身が痙攣した 後、後は何ごともない静けさなのだ。僕は眼をみひらいて自分の感覚をしらべてみる。どこにも異状は なささうなのだ。それだのに、さっき、さきほどはどうして、僕の意志を無視して僕を爆発させたのだ らうか。あれはどこから来る。あれはどこから来るのだ？だが、僕にはよくわからない。……僕のこの 世でなしとげなかつた無数のものが、僕のなかに鬱積して爆発するのだらうか。それとも、あの原爆の 朝の一瞬の記憶が、今になって僕に飛びかかってくるのだらうか。僕にはよくわからない。僕は広島の 惨劇のなかでは、精神に何の異状もなかったとおもふ。だが、あの時の衝撃が、僕や僕と同じ被害者た ちを、いつかは発狂ささうと、つねにどこかから覘つてゐるのであらうか。②

（     ）僕はねむれない寝床で、地球を想像する。夜の冷たさはぞくぞくと僕の寝床に侵入してくる。 僕の身躯、僕の存在、僕の核心、どうして僕はこんなに冷えきっているのか。僕は僕を生存させてゐる 地球に呼びかけてみる。すると地球の姿がぼんやりと僕のなかに浮かぶ。哀れな地球、冷えきった大地 よ。だが、それは僕のまだ知らない何億万年後の地球らしい。僕の眼の前には再び仄暗い一塊りの別の 地球が浮んでくる。その円球の内側の中核には真赤な火の塊りがとろとろと渦巻いてゐる。あの鎔鉱炉 のなかには何が存在するのだらうか。まだ発見されない物質、まだ発想されたことのない神秘、そんな ものが混つてゐるのかもしれない。そして、それらが一斉に地表に噴きだすとき、この世は一たいどう なるのだらうか。人々はみな地下の宝庫を夢みてゐるのだらう、破滅か、救済か、何とも知れない未来 にむかって…③

だが、人々の一人一人の心の底に静かな泉④が鳴りひびいて、人間の存在の一つ一つが何ものによって も粉砕されない時が、そんな調和がいつかは地上に訪れてくるのを、僕は随分昔から夢みてゐたやうな 気がする。

「爆発」という言葉は第一段落の中で、三回出ています、それそれどういう意味を表しているか について、簡単に説明してください。

下線部②「だが、あの時の衝撃が、僕や僕と同じ被害者たちを、いつかは発狂ささうと、つねに どこかから覘つてゐるのであらうか。」の意味を説明してください。

「（ ）僕はねむれない寝床で、地球を想像する。夜の冷たさはぞくぞくと僕の寝床に侵入し てくる。」の括弧に適当な言葉を次の選択肢から選び、入れてください。

下線部③「破滅か、救済か、何とも知れない未来にむかって……」は、作者のどう いう心境を反 映しているのですか。

下線部④「泉」の意味について、簡単に説明してください。