次の文章の[一][二][三][四]を読んで、21~40 の問いに答えなさい。答えは選 択肢A、B、C、Dからもっとも適切なめを1っ選びなさい。
[二]
罰当番の井上権太に手伝って、耕作は手早く箒を使っている。床を掃きながら、耕作はかなり不安になっていた。いつ先生が現れるかわからない。手伝っているのを見つけられたら、何と言って叱られるだろう。先生は権太に一人でやれと言ったのだ。
机を並べたり黒板を拭いたりして掃除を終わった。二人は急いで学校を出た。校庭 を横切る時、職員室に先生たちがたくさんいるのが見えた。耕作は走り出した。走っ て校門を出ると、追いついた権太は、
「耕ちゃん、どうして走った?」
「のろのろ歩いていて、先生に見つかったら、手伝ったことが分かるだろう?」
「うん」
二人は急ぎ足で歩いて行く。
「分かったら叱られるからな」
権太は黙っていた。
二人の下駄の音が、仲良く響く。歩調が合っている。
「耕ちゃん、お前そんなに叱られるのいやか」
「そりゃあいやださ。権ちゃんは平気か、毎日叱られて」
「平気っていうことはないけどさ。だけどねぇ、家の父ちゃんは、叱られるからす るとか、叱られないからしないというのは、ダメだって、いつも言うからねえ」
「……ふうん。だって、誰でもみんな、叱られるからしたり、しなかったりするん じゃないのか」
耕作には権太の言うことが、よく分からない。
「あんなあ耕ちゃん。父ちゃんが言ってるよ。叱られても、叱られなくても、やら なきゃならんことはやるもんだって」
「叱られても、叱られなくても……うん、そうか、分かった」
権太の言葉を納得したとたん、耕作はがんと頬を殴られた思いがした。耕作は小さ い時から、いつも人に褒められてきた。「耕作は利口もんだ」「耕ちゃんを見れ、行儀 がいいこと」いつもそう言われ続けてきた。字も絵も朗読も作文も、褒められた。い つの間にか耕作の心の中には、より褒められたい思いが渦巻くようになった。褒めら れたいと思うことは、また叱られまいとすることでもあり、誰にも指をさされまいと することでもあった。叱られるということは、いつも褒められている耕作には、耐え 難い恥ずかしさであった。
それが今、権太に言われて、はじめて自分のどこかが間違っていることに気がついたのだった。
「したら権ちゃん、先生に叱られても、平気なんだね」
「そうじゃない。泣いたことだってあるけどさ。だけど先生に叱られるからと言っ て、病気の母ちゃんの手伝いをしないで学校に走って来たりはしないよ」
権太は学校に遅れるより、病気の母親を労わらないほうが、悪いことだとはっきり 確信しているのだ。
「そうだなあ、権ちゃん。権ちゃんの言うとおりだなあ」
耕作は素直に言った。
(叱られても、いいことはするもんなんだ。)
そう思うと、耕作は改めて「叱られたっていい」と言った。